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Graphpaperのトレンチコートとステンカラーコートを手がける、青森県七戸に構えるコートに特化した縫製メーカー「サンヨーソーイング」の工場長・青木豪氏に、ディレクター・南貴之がコート作りの極意を根掘り葉掘り聞きました。


Double Cloth Peach Soutien Collar Coat / Double Cloth Peach Trench Coat



ーーまずサンヨーソーイングさんの歴史というか成り立ちを教えてください。

今から約50年ほど前、1969年に元々は茨城県水戸市に創業しました。それから6年後の1975年、トレンチコートを作るために、青森県七戸町に工場を作ることになり、そこからコートに特化した工場としてスタートしています。

当初は水戸の本社工場で裁断したパーツを青森の工場に送り、縫製後再びリターンするという方法で進めていましたが、徐々に現地で全てできるよう業務を拡大し、今は全工程を青森の工場で生産しています。

ーーコートだけを縫っている専門の工場はあまりないということですが…。

100%コートだけを生産する工場は、私の知る限りではおそらく弊社だけ。どうしても閑散期が生まれてしまうので、そういう時はジャケットなどを縫っている工場も多いという気がします。

ーーひと口にコートと言っても、生地もウールからコットン、裏地付きからなしまでいろいろありますが、コート全般を手がけられてますか?

得意とするのは綿ギャバのステンカラーコートだったり、トレンチコートですが、やはりそればかりでは成り立たないので、秋冬にはウールのコートも作っています。

Double Cloth Peach Soutien Collar Coat


ーーコートを作る上で、独自の作り方とか特徴はあるんでしょうか?

大きく分けると3つあります。一つは工業パターンへの加工技術。お客さんからパターン、型紙をもらって、当然デザインを変えることはしませんが、まずはうちの作り方に合わせたパターンに加工していきます。それから高度な縫製技術。平均勤続20年という熟練工たちが、サンヨーソーイングの顔になるように生地をひっぱりながら縫っていく。縫製後はバンドル流しと言って10着ずつぐらいの束で流していくためどうしてもシワが出るので、それを製品の顔にするため特注のアイロン台やプレスなどの独自機材を使って、30年選手のベテランの職人が仕上げていく技術です。

 

ーー縫製も仕上げのやり方もやはり全然違うものですか?

トレンチコートというと、どちらかというとカジュアルアイテムのイメージで捉えられてますが、弊社の作り方は裾から縫っていき、肩のところで裏地が適切な分量になるように、縫った段階で前身、後身の裏地を手でカットしていきます。襟周りを縫う時も通常は1cmの縫い代で縫うのですが、それより多めの2cmで、まず機械で周囲を縫い、適切な分量に縫い代をカットし、アイロンで返した後、返り分量を目視しながら手で調整して、身頃に付ける側の縫い代をはさみでカットしていく。縫ってからはさみを入れるという作り方はスーツ工場の手法なんですが、カジュアルアイテムの工場でこういった作り方をしている工場はあまりないのではないかと思います。また、襟の取り付けも、外側はミシンをかけて、内側は手でまつっていきます。そうすることで首に沿って柔らかく、襟の立ち姿もきれいになる。そんな独自の作り方に合わせるために、パターンの加工は重要な役割を担っています。

 

ーー前芯も独特な気がします。

芯地でゴワついたり膨らんだりしないように据えていて、柔らかいけどしっかりしている。裾もノーステッチにしたいということでしたら、フラシ芯を入れて、裾はカーブしているので縫い代端よりも折り上げた時の縫い代端を縮めなければならないんですが、うちでは反対に縫い代に据えた芯に縮めながら縫い付けていって、ノンステッチでも裾が落ちてこないようにしています。

それと、自分たちで言うのもなんですけど、襟は一番落ち着いているかなと思います。返り分を目視で確認しながら縫っていますので反り返ったりしませんし、コートの顔は襟なので、そこがきちんと落ち着くように配慮しています。あとは、前端が下まできれいにストンと縫われ、パッカリングが寄らないとか、気を付けながらコットンのコートは作ります。

 

ーーなるほど、いろいろと腑に落ちました。では、Graphpaperのコートを作る上で大変だったとか、気をつけていただいたことはありますか?

形で大変ということはそこまでないのですが、Graphpaperさんの素材感は初めてだったので、この素材が最後まで落ち着いてちゃんと縫い上がるのかということは、事前にテストして生地の動きを確認してから、スポンジング加工(仕立てる前に織物の歪みを修正すること)をかけるのか、そのままパターン調整だけで済むのかを検証して判断します。それでも縫っているうちに予期せぬ動きをする生地もあるので、その場合は縫いながら調整し、職人が目視で仕上げたい形に修正していきます。特に2021年春夏用の素材は初めて触る生地なので、どういう動きをするのかをしっかり見極めてからやりたいと思います。

 

ーー確かに、縫う以前のパターンについて、肩線のラグランの位置を下げてほしいといったやり取りが多かったですね。でも逆に縫い上がった時には、やはり全然違うと思いました。でも工場さんが製品としてのクオリティを上げるためにパターンを加工していることを知らなかったので、今聞いて納得できました。裾から縫っていくことも知りませんでしたから。

普通は、ジャケット工場などは、上から縫っていって裾で調整するんですが、コートは丈が長いので、裾で後から調整するのはなかなか難しいため、裾をまず決め込んで肩で調整するという作り方をします。肩で裏地をカットするという手法は他ではやってないと思います。

 

ーー現場は高齢化が進んでいると思うのですが、長く勤めている職人さんは今も現役なんですか? 若い職人さんも育っていらっしゃいますか?

60歳超えても現役という方も結構います。コートの国内生産需要が減っていく中で、ここ10年ぐらい新規採用はしてませんでしたが、新たに採用しないと存続できないだろうということで、2020年は新入社員が3名加わりました。東京の服飾専門学校に相談して説明会を行ったりして、青森出身者を含む3名が入社しました。これから技を引き継いでほしいと思っています。

今は従業員90名ぐらいですが、2、30年前のバブル期は200名以上、物量もたくさんあったので、ひとりが一つの工程を作業していました。だから、トレンチコートのインバーテッドプリーツをひたすら作る、工程を極めるというやり方をしていた頃からの職人さんがほとんどです。

ーーちなみに何工程ぐらいの分業なんですか?

細かくいうと、150〜200工程ほどあり、それぞれに特化した方がいました。いまだにそういう流れもありますが、担い手が減っていく中で、今後はひとりで何役もこなせる体制にしていく必要があるかもしれません。とはいえ、高精度に縫っていくとなると、1〜3工程を極めてる集団だからこそ、今のクオリティがキープできているということもあり、なかなか難しいところです。

 

ーーこれまでの経験によって培ってきた御社が誇る技術で、他にはどんなものがありますか?

コートによってはトリプルステッチを入れることもありますが、通常ですと、ダブルステッチ、トリプルステッチは針が複数付いているミシンをかけていくことが多いんですが、それだとどうしても並行してかける分、パッカリングが起きやすい。だから、弊社はダブルでもトリプルでも1本ずつかけます。時間が倍かかり、これって一体どうやって縫っているの?と、聞かれることがありますが、職人さんは普通にやっているだけだからわからないと言うんです。

ーーそんなことができるんですか⁉︎ Graphpaperでもやりたくなっちゃいます!

他には、ポケットは穴を開けて作りますが、僕は滅多に縫わないので穴を開けるのに30秒ぐらいかかるところを、職人さんはなんの迷いもなく、3秒ぐらいで開けるんです。全ての工程において、よくそんなスピードでそんなに正確にできるなといつも感心しています。

ーー時代の流れと共に、変わらずに同じ手法で作り続けているんですか? どこか進化したり、変化した部分もありますか?

長い年月をかけて、今の作り方になっているんだと思いますし、これから先、この作り方を止めるということでもないと思うので、まず守りながら。機械で前端を縫う工場もありますが、やはりうちならではの前端の落ち着きを出すには、手で引っぱり、テンションを手加減で調整しながら、縫っていってこそ、この顔になると思いますので、機械化しきれないところはどうしてもありますね。

ーー完全には機械化せずに、どこかしら人の手が全工程に入っていると。

襟の周りと小物類は機械で縫いますが、シルエットに関わる部分は全て人の手が入ってます。あと、ベルトなんかは内職さんに外注しています。工場内では90名ほどが働いていますが、七戸という街には、何十人もパーツを作ったり、ボタン付けをしてくれる内職の方々がいます。うちのコートは町ぐるみで作っているんです。

ーーぜひ行ってみたいですね。貴重なお話どうもありがとうございました。

Double Cloth Peach Trench Coat

 

Double Cloth Peach Soutien Collar Coat

 

Double Cloth Peach Trench Coat

 

 

<工場情報>
サンヨーソーイング青森
青森県上北郡七戸町字荒熊内67-18
http://sanyo-factories.jp/sewing.html

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